有理根定理

有理根定理(ゆうりこんていり、: rational root theorem)は整数係数の代数方程式

a n x n + a n 1 x n 1 + + a 0 = 0 {\displaystyle a_{n}x^{n}+a_{n-1}x^{n-1}+\cdots +a_{0}=0}

有理数の解に対する制約を述べた定理である。有理根定理は次のような言明である:

定数項 a0 および最高次の係数 an がゼロでないなら、有理数解 x = p/q を互いに素(最大公約数1)な整数 p, q で表したとき、p, q は以下の条件を満たす。

  • pa0約数
  • qan の約数

有理根定理は、多項式因数分解に関するガウスの補題(英語版)の特別な場合に当たる。また、最高次の係数 an1 であるとき成り立つ整数根定理 (integral root theorem) は、有理根定理の特別な場合である。

証明

直接的な証明

P(x) = anxn + an−1xn−1 + ... + a1x + a0 (a0, ..., anZ) なる多項式を考える。互いに素な p, qZ に対して P(p / q) = 0 を満たすことを仮定する:

P ( p q ) = a n ( p q ) n + a n 1 ( p q ) n 1 + + a 1 ( p q ) + a 0 = 0. {\displaystyle P\left({\tfrac {p}{q}}\right)=a_{n}\left({\tfrac {p}{q}}\right)^{n}+a_{n-1}\left({\tfrac {p}{q}}\right)^{n-1}+\cdots +a_{1}\left({\tfrac {p}{q}}\right)+a_{0}=0.}
(1)

(1) から定数項 a0 を右辺へ移項し、両辺に qn を掛けることで以下の方程式を得る。

p ( a n p n 1 + a n 1 q p n 2 + + a 1 q n 1 ) = a 0 q n . {\displaystyle \qquad p(a_{n}p^{n-1}+a_{n-1}qp^{n-2}+\cdots +a_{1}q^{n-1})=-a_{0}q^{n}.}
(2)

p と括弧内の整数の積は a0qn に等しく、従って pa0qn を割り切れることが分かる。しかしながら、pq は互いに素であり、ユークリッドの補題から同様に pqn も互いに素であるため、p は残る因数 a0 を割り切ることが示される。

(1) から最高次の項 an(p/q)n を右辺へ移項し両辺に qn を掛けることで次の式を得る。

q ( a n 1 p n 1 + a n 2 q p n 2 + + a 0 q n 1 ) = a n p n . {\displaystyle \qquad q(a_{n-1}p^{n-1}+a_{n-2}qp^{n-2}+\cdots +a_{0}q^{n-1})=-a_{n}p^{n}.}
(3)

pa0 の場合と同様の理由で、q は最高次の係数 an を割り切ることが示される[1]

ガウスの補題による証明

多項式のすべての係数を割り切る非自明な約数がある場合、その多項式を係数の最大公約数で割った、ガウスの補題(英語版)の意味での原始多項式が得られる。この原始多項式の有理根は元の多項式と同じであり、可約条件だけが強められる。 ガウスの補題によれば、ある多項式が有理係数の多項式 ℚ[X]因数分解できるなら、整係数の多項式 ℤ[X] で因数分解することができ、原始多項式の積として表すことができる。

ℚ[X] の 1 次の多項式が有理根 p/q を持つとき、p, q は互いに素であるとして、その多項式の原始多項式は qxp となる。 qxp を因数とする整係数多項式 ℤ[X] について、最高次の係数は q で割り切れ、定数項は p で割り切れるので、有理根定理が得られた。

この事はより一般に、多項式 P の可約でない因数は整係数を持つことができ、その最高次の係数と定数項が、対応する P の係数を割り切れることを示す。

例として、方程式

3 x 3 5 x 2 + 5 x 2 = 0 {\displaystyle 3x^{3}-5x^{2}+5x-2=0\,\!}

のいずれの有理根も

± 1 , 2 1 , 3 , {\displaystyle \pm {\tfrac {1,2}{1,3}}\,,}

に含まれなければならない。つまり、この方程式の根として可能なものは以下の 8 つである:

1 , 1 , 2 , 2 , 1 3 , 1 3 , 2 3 , 2 3 . {\displaystyle 1,-1,2,-2,{\frac {1}{3}},-{\frac {1}{3}},{\frac {2}{3}},-{\frac {2}{3}}\,.}

これらの候補は例えばホーナー法によってテストすることができる。今回の場合、正しい有理根は 1 つだけある。根の候補が方程式を満たさないなら、それを使って残る候補のリストを短縮できる[2]。例えば x = 1 は方程式を満たさず、方程式の左辺は 1 になる。 x = 1 + t という置き換えをすると定数項を 1 とし、t3 の係数は x3 の係数に等しい t の多項式が得られる。有理根定理を適用すれば、t として可能な根は

t = ± 1 1 , 3 {\displaystyle t=\pm {\tfrac {1}{1,3}}}

となる。従って、元の方程式の根の候補は次の通りである。

x = 1 + t = 2 , 0 , 4 3 , 2 3 {\displaystyle x=1+t=2,0,{\frac {4}{3}},{\frac {2}{3}}}

こうして得られた候補のリストと以前のリストを比較して、両者に存在しない候補は除外することができる。結局、候補のリストは x = 2, 2/3 に短縮される。

もし方程式の根の 1 つ r1 が発見されたなら、ホーナー法によって n − 1 次の多項式の根が得られる。これらの根は、r1 とともに、元の多項式の正確な根になっている。 また、いずれの候補も根でなかった場合、方程式は有理根を持たない。 定数項 a0 がゼロの方程式は有理根として 0 を持つ。

関連項目

脚注

  1. ^ D. Arnold, G. Arnold 1993, pp. 120–121.
  2. ^ King, Jeremy D. 2006, pp. 455–456.

参考文献

  • D. Arnold, G. Arnold (1993). Four unit mathematics. Edward Arnold. ISBN 0-340-54335-3 
  • King, Jeremy D. (2006-11). “Integer roots of polynomials”. Mathematical Gazette 90. 
  • Charles D. Miller, Margaret L. Lial, David I. Schneider: Fundamentals of College Algebra. Scott & Foresman/Little & Brown Higher Education, 3rd edition 1990, ISBN 0-673-38638-4, pp. 216–221
  • Phillip S. Jones, Jack D. Bedient: The historical roots of elementary mathematics. Dover Courier Publications 1998, ISBN 0-486-25563-8, pp. 116–117 (online copy, p. 116, - Google ブックス)
  • Ron Larson: Calculus: An Applied Approach. Cengage Learning 2007, ISBN 978-0-618-95825-2, pp. 23–24 (online copy, p. 23, - Google ブックス)

外部リンク

  • Weisstein, Eric W. "Rational Zero Theorem". mathworld.wolfram.com (英語).
  • RationalRootTheorem at PlanetMath
  • Another proof that nth roots of integers are irrational, except for perfect nth powers by Scott E. Brodie
  • The Rational Roots Test at purplemath.com