ピカール群

曖昧さ回避 ピカールモジュラー群(英語版) 」とは異なります。

数学では、環付き空間 Xピカール群(Picard group)は、 X 上の可逆層(もしくは、直線束)の同型類 Pic(X) がなす群であり、その演算はテンソル積から定まる。この構成は、因子類群やイデアル類群の構成の大域的なバージョンであり、代数幾何学複素多様体の理論でよく使われる。

ピカール群は、層コホモロジー

H 1 ( X , O X ) {\displaystyle H^{1}(X,{\mathcal {O}}_{X}^{*})}

としても定義することができる。

スキーム(integral scheme)に対して、ピカール群はカルティエ因子の類群と同型であることを示すことができる。複素多様体に対し、指数層系列は、ピカール群の基本的な情報を与える。

エミール・ピカール (Émile Picard) の理論、特に代数曲線の因子の理論から、ピカールの名前がついている。

  • k射影空間 Pn(k) の可逆層は、ねじり(英語版)(Twisting sheaf)層 O ( m ) , {\displaystyle {\mathcal {O}}(m),\,} であるから、Pn(k) のピカール群は Z に同型である。
  • k 上の 2 つの原点をもつアフィン直線のピカール群は、Z に同型である。

ピカールスキーム

ピカール群(の表現可能函手(representable functor)のバージョンでの)スキーム構造の構成であるピカールスキーム (Picard scheme) は、代数幾何学、特にアーベル多様体の双対理論(英語版)(duality theory of abelian varieties)では重要なステップである。ピカールスキームはGrothendieck & 1961/62で構成されていて、また、Mumford (1966)Kleiman (2005)にも記載がある。ピカール多様体は、古典的な代数幾何学のアルバネーゼ多様体の双対である。

古典的な代数幾何学で最も重要な場合は、標数が 0 のの上の非特異完備多様体(英語版)(complete variety) V に対し、ピカールスキームの単位元の連結成分は、Pic0(V) と書かれ、アーベル多様体である。V が曲線である特別な場合は、この成分が Vヤコビ多様体である。しかしながら、正標数では、井草準一は被約でない Pic0(S) を持つ、従ってアーベル多様体とはならない、滑らかな射影曲面 S の例を構成した。

Pic ( V ) / Pic 0 ( V ) {\displaystyle \operatorname {Pic} (V)/\operatorname {Pic} ^{0}(V)} 有限生成アーベル群であり、Vネロン・セヴィリ群と呼ばれ、NS(V) と書く。言い換えると、ピカール群は次の完全系列に適合する。

1 P i c 0 ( V ) P i c ( V ) N S ( V ) 0. {\displaystyle 1\to \mathrm {Pic} ^{0}(V)\to \mathrm {Pic} (V)\to \mathrm {NS} (V)\to 0.\,}

ランクが有限であるという事実は、フランシス・セヴィリ(英語版)(Francesco Severi)の基底定理(theorem of the base)である。ランクは Vピカール数 (Picard number) であり、しばしば ρ(V) と書かれる。幾何学的には NS(V) は、V 上の因子の代数的同値(英語版)(algebraic equivalence)類を記述する。すなわち、因子の一次系(英語版)(linear equivalence of divisors)の代わりにより強い非線型な同値関係を用いると、分類は離散的な不変量となり扱いやすい。代数的同値は交叉数による本質的にトポロジカルな分類である数値的同値(英語版)(numerical equivalence)と密接に関係している。

相対的ピカールスキーム

f: XS をスキームの射とする。相対的ピカール函手(relative Picard functor)(あるいは、スキームであれば相対的ピカールスキーム)は、任意の S-スキーム T に対し、

Pic X / S ( T ) = Pic ( X T ) / f T ( Pic ( T ) ) {\displaystyle \operatorname {Pic} _{X/S}(T)=\operatorname {Pic} (X_{T})/f_{T}^{*}(\operatorname {Pic} (T))}

により与えられる[1]。ここに、 f T : X T T {\displaystyle f_{T}:X_{T}\to T} f のベースチェンジであり、fT * はその引き戻しである。

(次数がピカール群 Xs に対して定義されているとき、)すべての幾何学的生成点 sT に対し、s に沿う L の引き戻し s L {\displaystyle s^{*}L} が、ファイバー Xs 上の可逆層として、次数 r であれば、 Pic X / S ( T ) {\displaystyle \operatorname {Pic} _{X/S}(T)} L が次数 r であると言う。

環のピカール群

「Die Picardgruppe von Ringen」を参照。

参照項目

参考文献

  • Grothendieck, A. (1961/62), V. Les schémas de Picard. Théorèmes d'existence, Séminaire Bourbaki, t. 14,, http://www.numdam.org/item?id=SB_1961-1962__7__143_0 
  • Grothendieck, A. (1961/62), VI. Les schémas de Picard. Propriétés générales, Séminaire Bourbaki, t. 14,, http://www.numdam.org/item?id=SB_1961-1962__7__221_0 
  • Hartshorne, Robin (1977), Algebraic Geometry, Berlin, New York: Springer-Verlag, ISBN 978-0-387-90244-9, MR0463157, OCLC 13348052 
  • Igusa, Jun-Ichi (1955), “On some problems in abstract algebraic geometry”, Proc. Nat. Acad. Sci. U.S.A. 41: 964–967, doi:10.1073/pnas.41.11.964 
  • Kleiman, Steven L. (2005), “The Picard scheme”, Fundamental algebraic geometry, Math. Surveys Monogr., 123, Providence, R.I.: American Mathematical Society, pp. 235–321, arXiv:math/0504020, MR2223410 
  • Mumford, David (1966), Lectures on Curves on an Algebraic Surface, Annals of Mathematics Studies, 59, Princeton University Press, ISBN 978-0-691-07993-6, MR0209285, OCLC 171541070 
  • Mumford, David (1970), Abelian varieties, Oxford: Oxford University Press, ISBN 978-0-19-560528-0, OCLC 138290 

脚注

  1. ^ Kleiman 2005, Definition 9.2.2.
典拠管理データベース: 国立図書館 ウィキデータを編集
  • イスラエル
  • アメリカ