クベーラ

曖昧さ回避 この項目では、インド神話の神について説明しています。ネイバーで連載されたウェブ漫画については「クベーラ (漫画)」をご覧ください。
杯を持つクベーラ像 砂岩製 10世紀 北インド(サンアントニオ美術館)

クベーラサンスクリット語: कुबेर, Kubēra)は、インド神話の富と財宝のデーヴァ)。ヴァイシュラヴァナサンスクリット語: वैश्रवण, Vaiśravaṇa)ともいい、これは「ヴィシュラヴァスの子」を意味する。その名の通りヴィシュラヴァス(英語版)の子で、プラスティヤ(英語版)の孫。ナラクーバラ、マニグリーヴァの父。ヤクシャ族の王とされ、ラークシャサ族の王であるラーヴァナとは異母兄弟に当たる。

概要

ラーマシータを乗せてランカー島を去るプシュパカ

クベーラは地下に埋蔵されている財宝の守護神であり、またローカパーラの一人として北方の守護神とされる。

シヴァ神と親しく、カイラス山にある都アラカーに居住して、ヤクシャをはじめガンダルヴァラークシャサなど多数の半神族にかしずかれている。千年の修行がブラフマー神に気に入られ、神となることができ、さらにプシュパカ(サンスクリット語: पुष्पक, puṣpaka)というヴィマーナを授かった。もともとラークシャサの居城があったランカー島を都としたが、後にラーヴァナとの対立によってカイラス山に退き、またプシュパカをも奪われる。

クベーラは以下の著名な9つの財宝(サンスクリット語: निधि, Nidhi)がある[1]

  1. 亀(サンスクリット語: कच्छप, Kacchapa
  2. スイレンサンスクリット語: कुमुद्, Kumud
  3. ジャスミンサンスクリット語: कुन्द, Kunda
  4. 麝香薔薇(サンスクリット語: खर्व, Kharva
  5. マカラサンスクリット語: मकर, Makara
  6. [要曖昧さ回避]サンスクリット語: नील, Nīla
  7. 巻貝(サンスクリット語: शंख , Śaṇkha
  8. 蓮華(サンスクリット語: पद्म, padma
  9. 大蓮華(サンスクリット語: महापद्म, Mahāpadma

クベーラに言及する最も古いものは『アタルヴァ・ヴェーダ[2]で、異名のヴァイシュラヴァナも併称されており、ラジャタナービー(rajatanābhi)という名の子孫がいる[3][4]。その連の内容はクベーラと隠蔽サンスクリット語: तिरोधा, tirōdhā)の関係を詠んだものである。

バーガヴァタ・プラーナ(英語版)』でのナラクーバラとマニグリーヴァは、ヤクシャではなくグーヤカ(英語版)サンスクリット語: गुह्यक, guhyaka)であり、このグーヤカは「秘密(サンスクリット語: गुह्य, guhya)にするもの」を意味し、仏典では「密迹」と漢訳されている。そして、父のクベーラ自身はグーヤカディパティー(サンスクリット語: गुह्याकाधिपती, guhyākādhipatī)やニディグーヤカーディパ(サンスクリット語: निधिगुह्यकाधिप, nidhiguhyakādhipa)という尊称で呼ばれており、それぞれ「グーヤカの主」と「財宝とグーヤカの主」を意味する。これらから、クベーラの語源を「覆う、隠す」(サンスクリット語: कुम्ब्, kumb)とする説がある[5]

外見的な特徴

図像学の観点では、クベーラは黄色で表現されて、ヴァーハナが動物ではなく人間(またはヤクシャなどの人間の姿をした存在)という特徴がある[6][7]

一方で、チベット仏教のヴァイシュラヴァナは棍棒や旗を携え、スノーライオンに乗っている[8]。さらに、クベーラは馬の神でもある[9][10]

  • アヌラーダプラ王国のローカパーラは左から馬、獅子、牛、象を従えており、左から2番目の獅子を従えて棍棒を持つのがクベーラ
    アヌラーダプラ王国のローカパーラは左から馬、獅子、牛、象を従えており、左から2番目の獅子を従えて棍棒を持つのがクベーラ
  • 獅子に乗り、棒を持つクベーラ
    獅子に乗り、棒を持つクベーラ
  • スノーライオンに乗り、旗とマングースを持つヴァイシュラヴァナ
    スノーライオンに乗り、旗とマングースを持つヴァイシュラヴァナ
  • 馬に乗るクベーラ
    馬に乗るクベーラ
  • 馬に乗るクベーラ
    馬に乗るクベーラ

彫刻などでは太鼓腹の目立つ姿で描かれ、アヒチャトラー(英語版)から出土した坐像(国立博物館 (ニューデリー)蔵)などは有名である。このほか、クベーラは杯を持つ場合[要出典]と、両手にそれぞれ「巻貝と蓮」、または「レモンマングース(サンスクリット語: नकुल, nakula)」を持つ場合がある。大洪水で海に沈んだ財宝はナーガのものとなったが、乳海攪拌のときにそれをデーヴァが取り戻し、クベーラはその宝物を監視する役割を負うことになったという逸話がある。この逸話が示す蛇の化身であるナーガとの対立は、クベーラが蛇の天敵であるマングースとともに描かれていることに符合する[11]

  • クベーラ坐像 国立博物館 (ニューデリー)蔵
    クベーラ坐像 国立博物館 (ニューデリー)蔵
  • 棍棒を持つ太鼓腹のクベーラ
    棍棒を持つ太鼓腹のクベーラ
  • 杯を持つ太鼓腹のクベーラ
    杯を持つ太鼓腹のクベーラ
  • ジャンバーラ像 右手にレモン、左手にマングースを持つ
    ジャンバーラ像 右手にレモン、左手にマングースを持つ
  • 宝石を吐くマングース、巻貝、白蓮、巨大魚、スノーライオンなどに囲まれた五重塔のタンカ
    宝石を吐くマングース、巻貝、白蓮、巨大魚、スノーライオンなどに囲まれた五重塔タンカ

仏教とのかかわり

仏教では主に異称のヴァイシュラヴァナで知られ、漢訳の際にヴァイシュラヴァナを意訳した名前が多聞天で、ヴァイシュラヴァナを音写した名前が毘沙門天である。四天王の多聞天が北方の守護を担うのはクベーラが北方のローカパーラであることに由来している。

詳細は「毘沙門天」を参照

薬師如来十二神将の筆頭・宮比羅(くびら)とよく混同されるが、由来は全く異なる。宮比羅はヒンドゥー教のガンジス川の神クンビーラが仏教に取り入れられたものであるが、クンビーラとクベーラは名前が似ているだけで、両者は全くの別の神である。

脚注

[脚注の使い方]
  1. ^ A Classical Dictionary of Hindu Mythology and Religion, Geography, History and Literature, p. 222, - Google ブックス
  2. ^ The Myths and Gods of India: The Classic Work on Hindu Polytheism, p. 135, - Google ブックス
  3. ^ ウィキソース出典  (サンスクリット) अथर्ववेदः/अथर्ववेद: काण्डं 8, ウィキソースより閲覧, "sōd akrāmat sētarajanān āgachat tām itarajanā upāhvayanta tirōdha ēhīti tasyāḥ kubērō vaiśravaṇō vatsa āsīd āmapātraṁ pātram tāṁ rajatanābhiḥ kabērakō'dhōk tāṁ tirōdhām ēvādhōk tāṁ tirōdhām atirajanā pitara upa jīvanti tirō dhattē sarvaṁ pāpmānam upajīvanīyō bhavati ya ēvaṁ vēda" 
  4. ^ The Atharva Veda, p. 370, - Google ブックス
  5. ^ The Disguises of the Demon: The Development of the Yaksa in Hinduism and Buddhism, p. 63, - Google ブックス
  6. ^ THE INDIAN BUDDHIST ICONOGRAPHY, p. 361, - Google ブックス
  7. ^ Iconography of Religions, p. 25, - Google ブックス
  8. ^ The Buddhism of Tibet Or Lamaism, p. 370, - Google ブックス
  9. ^ Sacred Animals of India, p. 202, - Google ブックス
  10. ^ Early Interactions Between South and Southeast Asia: Reflections on Cross Cultural Exchange, p. 424, - Google ブックス
  11. ^ The Flame and the Lotus: Indian and Southeast Asian Art from the Kronos collection, p. 122, - Google ブックス

関連項目

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